涙する

今日はS女子が定休。
S嬢と二人で、午前中の注文をなんとか捌けた。
で、昼休みの食事中......。


俺的にどうしても我慢できない態度をS嬢がとった。
本当に我慢できなくて、「午後から帰っていいよ」 と宣告。
しばらくして 「帰す理由を教えて下さい」 と聞いて来たので、今まで我慢してきた事も全て、洗いざらい話して諭した。


そして、「俺と仕事がしたくないんだったら、もう、この店を辞めていいよ。」 とも言ってしまった。
もう半年以上、この言葉だけは絶対に言わないように、と自分に言い聞かせて来たんだけどね。
我慢できなかったし、それが彼女の為だと、そう思った。
そして、黙ってS嬢は帰っていった........。


その後の、午後の仕事。
全く手につかなかった。
「明日、S嬢は来るのかな?」
そればかり考えていた。


俺独りの厨房。
そこに残された、いつもは持って帰るS嬢の分厚い配合手帳。
「ショコラの新商品を」 という事で、S嬢が考えてくれたショコラのデッサン。
そのまま残された、S嬢のきちんとたたまれたダスター。


それらを見ているうちに、涙が溢れ出てきた。
「ああ、なんて事を言ってしまったんだろう.......。」
後悔の念も出てきてしまった。


S嬢は本当に頑張っている。
あの華奢な身体で、大変な力仕事もこなす。
器用で物覚えも早い。
何より、同世代の子よりも安いと思われる給料で、この厳しい仕事を頑張っている。


そのような子を、「態度が悪い」 というだけであんな風に突き放してしまっていいものか?
そんな自問自答を、俺はずっと繰り返していた。


いや、怒って当然なんだけどね。
この厳しい職人の世界だけでなく、世間一般、普通の会社員だって許されない態度をS嬢はとってくる。
「それではいけないんだよ」 という事を、S嬢に分からせてあげたかった.......。


ああ、神様。
俺はどうすれば良いのですか?


この世界に入って13年。
どんなにシェフに怒られても、どんなに先輩にいじめられても、どんなに仕事が上手くいかなくても、なんとか俺は乗り越えてこられました。
でも、今回ばかりは本当に駄目そうです。
心が折れかけています........。


明日、S嬢は来るのだろうか?
部屋の眞鍋さんのカレンダーを見て、また涙が出て来た.......。